大阪地方裁判所 昭和54年(手ワ)2162号 判決 1979年12月24日
原告
中央アイチ株式会社
右代表者
石野孝子
右訴訟代理人
松本義信
右同
渡辺邦守
被告
葛籠角一
主文
被告は原告に対し、金五〇〇万円とこれに対する昭和五四年一〇月二四日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
一 原告は、「被告は原告に対し金五〇〇万円とこれに対する昭和五三年一月二〇日以降支払済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。
1 被告は、訴外錦安全工業株式会社が訴外タイセイ工業株式会社に振出交付した別紙目録記載の約束手形二通に手形面上支払保証した。
2 訴外タイセイ工業株式会社は、前記約束手形二通を拒絶証書作成義務免除のうえ、被裏書人白地のまま原告に裏書譲渡した。
3 前記約束手形二通は、呈示期間内に支払場所に呈示された。原告は、支払を拒絶された旨の記載及び裏書の連続ある前記約束手形二通を現に所持している。
4 依つて原告は被告に対し、前記約束手形二通の手形金元本及びこれに対する満期日以降支払済まで年六分の割合による手形法所定の利息金の支払を求める。
二 被告は、適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。
理由
一手形金元本請求について
原告は、被告が本件手形の振出人のために手形保証をした事実及び本件手形の裏書は連続しており、原告が同手形を所持している事実を主張しており、右事実は、民事訴訟法第一四〇条により、被告において自白したものとみなされるから、原告が被告に対し、本件手形元金元本債権を有することは明らかである。
二付帯請求についで
原告は、本件手形の満期以降の利息金を請求しているので、右請求を理由あらしめる事実について検討すると、考えられうるのは、次の(イ)ないし(ニ)の場合である。
(イ) 原告(適法な所持人)が本件手形を支払呈示期間内に支払場所で支払のため呈示したが、支払を拒絶された場合(手形法第七八条第一項、第二八条第二項、第四八条第一項第二号)。
(ロ) 適法な所持人が本件手形を支払呈示期間内に支払場所で支払のため呈示し支払を拒絶された後、原告が、右所持人あるいは右所持人から権利を承継(期限後裏書、債権譲渡等)した者から、権利を承継(期限後裏書、債権譲渡等)した場合。
(ハ) 原告(ただし、原告が裏書人、保証人等の遡求義務者である場合に限る。手形法第七七条第一項第四号、第四三条、第七七条第一項第五号、第六三条)が、適法な所持人から遡求を受けたので、手形金元本及び満期以降の利息金を支払つて、手形を受け戻した場合(手形法第七八条第一項、第二八条第二項、第四九条第一、二号。満期以降の利息金の請求は、一部請求となる。)。この場合、受け戻しに際し、利息金を支払つていなければ、手形法第七八条第一項、第二八条第二項、第四九条第二号により、受け戻しの日からの利息金を請求しうるのみである。手形を受け戻した者が、自己及び後者の裏書を抹消すれば(手形法第七七条第一項第四号、第五〇条第二項)、同人は、手形上の権利者と推定されるが(手形法第七七条第一項第一号、第一六条第一項第三文)、同人が適法な所持人として手形を呈示した者(前記(イ)参照)とみなされることにはならない。前記第一六条第一項第三文により、抹消した裏書が記載されざるものとみなされるのは、「此ノ関係ニ於テハ」、すなわち裏書の連続の関係においてのみである。
(ニ) 右(ハ)のとおりの金額(手形金元本及び満期以降の利息)を支払つた遡求義務者あるいは同義務者から権利を承継(期限後裏書、債権譲渡等)した者から、原告が権利を承継(期限後裏書、債権譲渡等)した場合(この場合も、満期以降の利息金の請求は一部請求となる。)。
ところが、原告は、本件手形が支払呈示期間内に支払場所において支払のため呈示され、支払が拒絶されたという事実を主張するのみで、前記(イ)ないし(ニ)のいずれの場合にあたるのかを主張していない。裏書関係についての原告の主張によると、訴外堀勇が訴外株式会社平和相互銀行に取立委任裏書をし、同銀行が支払呈示をしたものと考えられるが(従つて前記(イ)の場合とは異なる。)、原告は、本件手形に裏書等をした者ではない(従つて前記(ハ)の場合とも異なる)。また原告は、訴外タイセイ工業株式会社(第一裏書人)から白地式裏書により本件手形の裏書譲渡を受けたと主張するが、右譲渡は、期限前のものなのか(然りとすれば、原告は、いつたんは、引渡により他に手形を譲渡したのであろう。手形法第七七条第一項第一号、第一四条第二項第三号。)、期限後のものなのか(然りとすれば、遡求義務を履行した右タイセイ工業株式会社から、白地式裏書により譲渡を受けたことになる。これは、前記(ニ)の場合である。)、不明である。前者であるとすれば、前記(ロ)の要件の主張を要するし、後者であるとすれば、タイセイ工業株式会社の支払つた金額(遡求義務を履行する者が、常に手形金元本と満期以降の利息金を支払つているということはできない。)の主張を要すると考えられる。
二以上の検討によれば、本訴請求中、満期以降の利息金の支払を求める部分(付帯請求)は、主張自体失当というべきであるが、右付帯請求中には、本件訴状送達の日の翌日(記録によれば、昭和五四年一〇月二四日であることが明らかである。)からの遅延損害金(商事法定利率年六分の割合による。)の支払請求も包含されているものと解されるところ、右の支払請求は認容すべきであるから、本訴請求は、本件手形金元本と右遅延損害金の支払を求める限度において、正当として認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(肥留間健一)
約束手形目録
(一) 金額 金二五〇万円
満期 昭和五三年一月二〇日
支払地 東大阪市
支払場所 大阪商工信用金庫高井田支店
振出地 東大阪市
振出日 昭和五二年一〇月二〇日
振出人 錦安全工業株式会社
受取人 タイセイ工業株式会社
裏書関係 受取人の白地裏書。株式会社パシフイツクから第一信用金庫へ裏書(抹消ずみ)。堀勇から株式会社平和相互銀行へ取立委任裏書(抹消ずみ)。
(二) 支払場所 八光信用金庫布施支店その他の記載は、(一)に同じ。